日本医学脱毛学会
Japanese Society of Hair Surgery & Medicine
前期1単位)
● 総論
a. 毛の解剖と永久脱毛の原理
b. 基本的な脱毛術
c. 感染症対策
● 実技
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a. 毛の解剖と永久脱毛の原理
1. 毛を中心とした皮膚の構造
← 毛根の模型
A.皮膚とは
皮膚は、身体内部の臓器の保護、体温の調節、汗や皮脂の分泌な
ど、多くの機能を営む身体最大の臓器です。皮膚の厚さは皮下組織を
除いて、1.4mm〜4mm(平均約3mm)です。皮膚が薄い部分は顔面、特に
眼瞼周辺部分、厚い部分は背部や項部等です。四肢の屈側は伸側に比
べて薄い。皮膚の色調は主としてメラニン色素によりますが、この他
ヘモグロビン、カロチンなどが関与します。皮膚は表面から表皮・真
皮・皮下組織の3つの部分に大別することが出来ます。
2.顕微鏡的にみた皮膚
A. 表皮
表皮は皮膚表面に一番近い層ですが、さらに表皮に近い側から分類すると、角(質)層・透明層・顆粒層・有棘層・基底層に分かれます。一番深い層の基底層には、メラニン色素をつくる色素形成細胞(メラノサイト)とメラノサイトからメラニン色素を伝達されて角化していく角化細胞にわかれます。すなわちケラチノサイトは基底層・有棘層・顆粒層・透明層・角層と上昇しながら細胞核が失われ、細胞質も変性していく(角化)。最表層の角層の主成分はケラチンと蛋白質で吸水性が強く、表面の乾燥を防ぎ、潤いを保つのに役立っており、酸やアルカリともよく結合します。この層はpH5.6〜6.2で弱酸性です。角層は皮膚の保護のためにも大切な層です。なお、基底細胞が角化するまでに14日間を要し、さらにこれが表面から垢として脱落するのに14日間かかります。従って、表皮細胞の新陳代謝は約1ヶ月かかる訳です。
B. 真皮
表皮の下は真皮層です。真皮層は血管・リンパ管・神経・毛根・皮脂腺・汗腺などを含み、皮膚の栄養・分泌・感覚などの機能を司る体節なところです。真皮には表層の乳頭層と深層の網状層に分かれます。
乳頭層は細かい結合組織からなり、毛細血管のループ状をなし、神経の終末もここにあり、生理的な皮膚の働きの全てに関係が深い。
網状層は膠原線維・弾力線維・格子線維などからなり、皮膚の強靭さを司る重要な役割をはたしています。化学的に主成分はコラーゲンとエラスチン等の蛋白質です。
C. 皮下組織
ここは多量の皮下脂肪組織を含んでいる場所で、脂肪の量は人種・年齢・性・個人の健康状態などにより変化します。
3.毛嚢脂腺系
毛を中心とした組織は1つの単位をなし毛嚢脂腺系と呼ばれます。
すなわち、毛嚢皮脂腺系には毛根およびその周囲の毛嚢(毛包)・
皮脂腺・アポクリン腺が含まれます。
A. 毛及び毛嚢(毛包)の構造
毛の皮膚面より上の部分を毛管と呼び、皮膚の中の部分を毛根と
呼びます。毛根の最下端は球状にふくれて毛球となり、中に毛乳頭
をいれます。毛乳頭は毛髪の発生、成長の源になって毛母の働きを
司る。それゆえ、毛乳頭の働きが失われない限り、毛を抜いても再
生します。永久的な脱毛を行なうには、この部分を電気またはレー
ザーによって破壊してしまうことが必要です。
毛嚢(毛包)は毛を包むので皮膚の表皮(一部は真皮)の続きです。毛が皮膚から出てくる部分を毛孔と呼びますが、その部位は漏斗状に開き毛漏斗と呼びます。アポクリン腺は毛漏斗部に開口しています。アポクリン腺開口部の下方に皮脂腺開口部があり、この皮脂腺開口部あたりが毛漏斗の一番下端です。さらに皮脂腺の下方の毛包に起毛筋が付着しています。この起毛筋が付着する毛包部を毛隆起部と呼ぶ。交感神経が刺激されると起毛筋が刺激され毛が立ちます。毛隆起部までの毛包は毛のサイクルにより長さが変わらないので固定部と呼ばれます。これに対して、毛隆起部よりも深い部分の毛包は毛のサイクルにより長和が変化するので、変動部と呼ばれます。
毛には太い硬毛と細い軟毛(うぶ毛)があります。毛を輪切りに
して観察すると中心部(最内側)は毛髄質と呼ばれ、軟毛ではみら
れません。中間部は最も厚く、毛皮質と呼ばれ、紡錘状の角化細胞
が密着して縦に並んでいて、多くのメラニン色素と気胞を含み、毛
の色を決定します。例えば、〈黒髪〉はメラニン色素が多く気泡ば
少ない毛で、〈金髪〉はメラニン色素が少なく気胞が多い毛で、
〈白髪〉はメラニン色素が無く、気胞が多い毛です。毛皮質は弾力
性や牽引力も強く、化学薬品に対して比較的抵抗が強いが。アルカ
リと熱の作用や還元剤には弱く角質が偏執します。パーマネントウ
エーブがかかる原理はこれを利用したものです。
毛根の外側に毛嚢(毛包)がありますが、毛包の最内側の鞘小皮と
呼ばれる屋根瓦状に並んでいる角質片が、毛根の毛小皮と咬み合っ
て毛を固定し、抜け難くしています。
B. 皮脂腺
皮脂腺は皮脂を分泌する腺、毛漏斗の一番下端に開口しています。すなわち皮脂腺は常に毛と関係していますので毛嚢皮脂腺系として一つの単位に考えられます。普通、皮脂腺の大きさはこれを伴う毛の太さに反比例します。皮脂腺は、脂肪を含む細胞が集積しています。この細胞が崩壊すると管より押し出されて皮脂となります。
C. アポクリン汗腺(大汗腺)
皮脂腺開口部のすぐ上方にアポクリン汗腺開口部があります。従って、アポクリン腺も毛の有る所のみに存在するわけです。アポクリン腺は普通の皮膚表面に開口しているエクリン汗腺と皮脂腺との両方の性質を持っています。
アポクリン腺の作用は、皮脂腺と共に体臭の原因になっており、特に腋窩部で、臭いが強い場合は腋臭症(ワキガ)と呼ばれています。性機能と関係があり、思春期に機能が活発になります。
4. 毛の成長と毛周期
毛は周期をもって断続的に成長する。すなわち成長期
(anagen)、退行期(移行期・catagen)、休止期(telogen)
の3期に分けられます。
毛乳頭、毛球部の細胞活動が活発で毛がどんどん成長
する時期が成長期です。毛包部も長くなり、大きな成長
期毛包では真皮を貫いて脂肪組織内まで伸長します。成
長期毛を抜くのには70〜80gの力を要します。文献による
と、毛の一日の成長は平均0.4mmです。また、毛の成長期
は部位により差が有り、頭髪は2〜6年、陰毛は1〜2年、
下腿毛は約5ヶ月、前腕毛は約3ヶ月との報告があります。
成長期ののち、毛は退行期に入ります。退行期は2〜3週とされています。起毛筋起始部の下まで毛根鞘は短縮した後、休止期に入ります。休止期毛包は、成長期毛包の約1/2の長さで、毛乳頭は毛包下端より離れて存在しています。休止期の長さは部位を問わず一定で約3ヶ月と考えられています。ただ、腋毛の絶縁針脱毛での統計処理では休止期毛は70%あり、見えている可視毛は30%で、休止期間のばらつきも多く約10ヶ月でほとんどが成長期に移行します。
休止期の短い毛は棍毛(club hair)と呼ばれ先端が丸く、引っ張ると20g以下の力で容易に抜けます。
5. その他の毛の知識
A. 硬毛の分類
大人では毛は硬毛(terminal hair)と軟毛(vellus hair)とに分類されるが、硬毛はさらに以下のごとく分けられます。
ヒトの硬毛の分類
1)長さによる分類
a.長毛(long hair) :約1cm以上[頭毛、髭、腋毛、陰毛]
b.短毛(short hair):約1cm以下[眉毛、睫毛、鼻毛、耳毛]
2)形状による分類
a.直毛 (straight hair) :主に黄色人種の毛
b.波状毛(wavy hair) :主に白人の毛
c.縮毛 (curly hair) :主に黒人の毛
3)性ホルモンとの関係による分類
a.無性毛(non-sexal hair):[頭毛(側・後頭部)、眉毛、睫毛、四肢の毛]
b.両生毛(ambosexual hair):[腋毛、陰毛下端部]
c.男性毛(male sexual hair):[男性の前頭部、髭、陰毛の上部、耳毛、体毛(胸、手足背、指趾背)]
B. 毛根傾斜
毛は表皮に対して一定の角度をもって生えており、この角度を毛根傾斜と呼びます。
毛の毛根傾斜(26歳男性)
前額 上腕屈側 前腕屈側 大腿内側 下腿内側 下腿外側
主毛 51.4°±4°33°± 9°31°± 6°25°± 4°32°± 6°24°± 5°
C. 毛群
毛は一本一本単独で生えているのではなく、近接して解剖学的に一単位を作って配列しています。この現象を毛群(hair grouping)と呼びます。3本が一組をなす場合が、特に多く、これをトリオアレンジメント(torio arrangemennt)と呼びます。頭髪以外は一つの毛群無いの毛は、ほとんど同じ毛周期相(3本ともに成長期とか、または3本ともに休止期とか)を営んでいるようです。
D. 毛流
毛包は体表に一定の紋理を描いて配列しています。これを毛流(hair stream)
と呼びます。脱毛術にあたっては毛流の知識が大切です。旋毛(つむじ)が全
身に何ヶ所も有りますので、その場所は脱毛に配慮が必要です。
6.絶縁針電気凝固法脱毛術について
従来の非絶縁針による電気凝固術の最大の欠点は、毛球部・毛乳頭を電気的に破壊させようとすると、皮膚表面まで焼けてしまう点です。
この点を改良したのが絶縁針脱毛術であり、この針の使用により、皮膚表面はきれいなまま、皮内にある毛球部・毛乳頭部を選択的に電気凝固破壊する事が可能になりました。
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b.基本的脱毛術
前期1-6単位) 【実習 】
下肢の脱毛の諸注意
●特徴
a. 毛の休止期は3~4ヶ月、成長期は4~6ヶ月。
b. 毛流方向はほぼ一定している。
c. 下腿部(特に外側)の場合、毛根傾斜は20~30度と、かなり小さい事を念頭に置く。
d. 比較的痛みを強く感じる場所は、膝頭、足関節部近く、脛骨直上部である。
e. 膝頭部は皮膚が硬く、毛流方向も定め難い。
f. 大腿部は下腿部よりも毛根が短めで皮膚の弾力も大きい。
g. 足背、足趾は皮膚の直下に骨があり、毛根が短い。
●脱毛術の実際
a. 対極板は、脱毛直下に置く。
b. 下腿の場合、脱毛範囲が長いので適宜ライトを合わせて、常に明るい中で脱毛出来るように心掛ける。
c. 脱毛開始直後は、数秒の氷冷却と毛1本に対する通電を交互に施行していくが、次第に皮膚温が下がっていくので脱毛数を2本、3本と増やしていく。ただし、足首などの痛みの強い場所は1本ずつ脱毛していっても良い。
d. 脱毛中術者は毛流に合わせて、座る位置を適宜考慮しなければならない。
e. 内側、外側の脱毛に関しては、側臥位をとり脱毛面を上に向ける。
f. 膝頭部は、膝直下に枕などを置き十分に伸ばして脱毛する。
●実技
セッシとホルダーの持ち方
【ポイント】
1) ボールを握るような形。
2) ホルダーとセッシは筆を持つ様に軽く3本の指で持つ。
3) 中指と薬指とは一緒に動かないようにして、お友達にならない。
4) 動くときは薬指と小指で支えます。
5) 手首を支点にするのでは無く、肘を支点にして針に対して平行に動かします。
針装着
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c.医療行為である認識と感染症対策
1.永久脱毛は絶縁針電気凝固脱毛もレーザー脱毛も医療行為です。手技は医師か看護師が必ず行ない、医師の責任の元に行ないます。医師も看護師も自覚が必要です。感染対策は絶縁針脱毛だけでなく、レーザー脱毛も必要です。患者は中々理解してくれない場合もありますので、医療関係の方が医療行為である認識は重要です。針は刺しますので、感染のイメージはわかるようですが、レーザーなら大丈夫と思っているようです。時々ポップアップの様に毛が飛びだしてくる事がありますよね。浸出液が出ているという事です。またそれは傷が毛孔に出来ている事になり、感染のチャンスは有るという事です。
2.術前採血での感染症のチェックは、絶縁針脱毛・レーザー脱毛ともども必要です。
3.もし感染症があった場合は、医療機関毎に判断して行なって下さい。必要に応じて、絶縁針脱毛を断る場合もあっても良いと思います。受ける時はそれなりの注意と術前術後の消毒が必要でしょう。
4.絶縁針の本人専用にして、さらに絶縁針の消毒、機械の消毒(コード・ホルダーの消毒)
5.・・・その他